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危機管理#ニデック 不正会計#不正防止 中小企業#内部統制 対策#公益通報者保護法 改正 2026#企業不祥事 防止

ニデック・東芝に学ぶ不正会計の防ぎ方|元捜査二課刑事が教える中小企業の内部統制

2026/3/13
田原 靖弘
12 min read

💡この記事の要点 / Key Takeaways

2026年3月公表のニデック第三者委員会報告書によれば、純資産への影響額は約1,397億円。「大企業の話だからうちには関係ない」は最も危険な思い込みです。元大阪府警捜査二課刑事が「不正のトライアングル」理論でニデック・東芝の構造的原因を解剖し、中小企業が今日から実行できる不正防止策と内部統制の基本を解説。2026年12月施行の公益通報者保護法改正にも対応。

2026年3月3日、ニデックが第三者委員会の調査報告書を公表しました。

純資産への影響額約1,397億円。減損損失の検討対象額は約2,500億円。報告書では、多数の会計不正が複数拠点で確認されており、会社側も調査継続中としています。創業者の永守重信氏は名誉会長を辞任し、経営陣4名が退任しました。

「大企業の話だから、うちには関係ない」——そう思った方にこそ、読んでいただきたい記事です。

コンプライアンス違反による企業倒産は2024年に過去最多の320件(東京商工リサーチ調べ)。その多くは中小企業です。不正は企業の規模に関係なく起こります。むしろ、チェック体制の薄い中小企業ほどリスクは高い。

元大阪府警捜査二課で詐欺・横領・企業犯罪の捜査に携わり、民間企業の取締役として経営にも参画した経験から、ニデック不正会計問題の構造的原因を解剖し、中小企業が今すぐ実行できる不正防止策を解説します。

ニデック不正会計問題で何が起きたのか

まず、事実を整理します。

経緯の時系列

  • 2025年6月 — イタリア子会社での貿易取引上の問題が発端で調査開始
  • 2025年7月 — 社内一斉調査で中国現地法人等の不適切会計が判明
  • 2025年9月 — 監査法人PwCジャパンが有価証券報告書に「意見不表明」(大企業では極めて異例)
  • 2025年10月 — 東証が「特別注意銘柄」に指定
  • 2025年11月 — 日経平均構成銘柄から除外
  • 2026年2月26日 — 創業者・永守重信氏が名誉会長を辞任
  • 2026年3月3日 — 第三者委員会報告書を公表。会長・副社長・CFO・顧問が辞任
  • 2026年3月11日 — アクティビストのオアシス・マネジメントが6.74%の株式を取得

報告書で明らかになった主な会計不正の類型

第三者委員会(弁護士35名・公認会計士81名・スタッフ77名、総勢約200名が半年以上かけて調査)が認定した不正の手法は、以下の7パターンです。

# 手法 内容
1 棚卸資産の評価損不計上 販売見込みのない在庫を帳簿に残し続け、評価損を計上しなかった
2 固定資産の減損回避 減損すべき固定資産の処理を回避し、利益悪化を隠した
3 費用の資産化 本来費用計上すべき人件費を固定資産に計上し、減価償却で先送り
4 補助金の不正戻入れ 子会社の補助金返還引当金を、連結で不正に戻し入れた
5 補助金の不正収益計上 資産に関する補助金の性質を偽り、一括で収益に計上
6 貸倒引当金の未計上 不良債権に対して適切な引当金を計上しなかった
7 金型偽装・売上早期計上 さびた金型を「新品」と偽装して費用を抑制。売上の早期計上も

出典:ニデック第三者委員会調査報告書(2026年3月3日公表)

第三者委員会は報告書で、これらを「不適切な会計処理」ではなく、明確に「会計不正」と断じました。

元刑事が見る「不正のトライアングル」— なぜ人は不正をするのか

犯罪学に「不正のトライアングル」という理論があります。1950年代にアメリカの犯罪学者ドナルド・R・クレッシーが横領犯の研究から導き出したもので、「動機」「機会」「正当化」の3つが揃ったとき、人は不正に手を染めるというものです。

捜査二課で詐欺・横領・背任の取調べを行ってきた経験から言えば、この理論は机上の空論ではありません。私が取り調べた被疑者のほぼ全員が、この3つの要素を満たしていました。

動機(Pressure)

不正を行わなければならない圧力。借金、業績プレッシャー、生活困窮、ノルマ未達への恐怖など。

ニデックの場合:

強すぎる業績プレッシャーのもとで、高すぎる業績目標の達成が求められ続けた。

機会(Opportunity)

不正が実行可能で、発覚しにくい環境。内部統制の欠陥、一人経理、チェック体制の不在など。

ニデックの場合:

社外取締役が過半を占める体制であっても、実効的な牽制が十分に機能しなかった。「特命監査部長」が秘密裏に処理する体制。監査機能の形骸化。

正当化(Rationalization)

自分の行為を正当化する心理。「借りるだけ」「会社のため」「みんなやっている」など。

ニデックの場合:

「セルフファンディング」ルール(後述)により、損失を隠し続けることが「生き残る唯一の方法」と化した。

不正は「悪い人間」が起こすのではない。「悪い構造」が普通の人間を不正に追い込む。

これは捜査二課での経験から確信していることです。ニデック不正会計問題でも、不正を行った現場の社員たちは、おそらく入社時には誠実に働こうと思っていたはずです。しかし、トップからの過度なプレッシャー(動機)、機能しない監査体制(機会)、「会社を守るためにはこうするしかない」という企業文化(正当化)が揃ったとき、人は不正に手を染めます。

ニデック不正会計問題の構造的原因 — 東芝と同じ轍

ニデック不正会計問題を見て、10年前の東芝不正会計事件を思い出した方は多いはずです。構造は驚くほど似ています。

項目 東芝(2015年発覚) ニデック(2025年発覚)
キーワード 「チャレンジ」 「絶対的な業績目標」
構図 歴代社長が達成困難な利益目標を要求 創業者がトップダウンで目標設定
不正の内容 損失計上の先送り、利益水増し 評価損不計上、減損回避、費用の資産化
社外取締役 機能不全 実効的な牽制が機能せず
結末 2023年に上場廃止 特別注意銘柄に指定(2025年10月)

東芝では「チャレンジ」、ニデックでは「絶対的な業績目標」。言葉は違いますが、本質は同じです。トップが非現実的な目標を設定し、達成できなかった者を厳しく罰する文化が、組織全体を不正に追い込んだ。

「セルフファンディング」— 不正を温存する仕組み

ニデック独自のルールで、最も構造的に問題だったのが「セルフファンディング」です。

これは「過去の損失を処理するなら、その損失と同額以上の利益を自力で稼いだ上で、なおかつ当期の業績目標も達成しろ」という要求です。

結果として、損失を正直に処理することは事実上不可能になり、「隠し続ける」以外の選択肢がなくなりました。不正がさらなる不正を呼ぶ悪循環です。

こうして蓄積された「負の遺産」(実態のない資産)は、1,662億円にまで膨張しました。

第三者委員会の結論は明確です。永守氏が不正を直接指示した事実は認定されなかったものの、「一部の会計不正を容認したとの評価は免れない」として、「最も責めを負うべきなのは永守氏である」と断じました。

「うちは大企業じゃないから関係ない」が最も危険

ニデックは売上高2兆円超の大企業です。しかし、不正の構造は企業規模に関係なく、どの会社にも存在しえます。

コンプライアンス違反倒産:2024年は過去最多

東京商工リサーチの調査によると、2024年のコンプライアンス違反倒産は320件(前年比1.6倍)で過去最多を記録しました。帝国データバンクの調査でも388件(2年連続過去最多)です。

違反類型 件数 前年比
税金関連(脱税・滞納等) 176件 +91.3%
詐欺・横領・偽装等 73件 +30.3%
不正受給 39件 +69.5%
粉飾決算 20件 +42.8%
雇用関連 12件 +71.4%

出典:東京商工リサーチ「コンプライアンス違反企業の倒産動向調査(2024年)」

粉飾決算の業種別内訳を見ると、建設業・卸売業が各5件、製造業4件と、中小企業が多い業種で頻発しています。

中小企業で多い不正のパターン

捜査二課で扱った事件と実務経験から、中小企業で特に多い不正パターンを挙げます。

  • 経理担当者による横領 — 小口現金の抜き取り、不正送金。経理業務が一人に集中する「ブラックボックス化」が最大の原因
  • 架空経費・カラ出張 — 架空の経費計上、出張していないのに出張費を請求
  • 水増し請求・キックバック — 仕入先と共謀し、水増し請求でキックバックを受領
  • 循環取引 — 取引実態がないのに売上・仕入を計上。決算期末に特定企業への売上が急増する

これらに共通するのは、「一人の人間に権限が集中し、誰もチェックしていない」という構造です。ニデックの永守氏への権限集中と、中小企業の一人経理は、規模は違えど構造は同じです。

中小企業が今すぐ実行できる不正防止5つの対策

大企業向けのJ-SOX(内部統制報告制度)のような大掛かりな仕組みは、中小企業には現実的ではありません。しかし、コストをかけずに今日から始められる対策があります。

1

経理の「一人体制」を崩す

最も費用対効果の高い対策です。経理が一人に集中している状態は、「不正のトライアングル」の「機会」そのものです。

  • 通帳管理者と銀行印管理者を分離する(同じ人間が両方を持たない)
  • ネットバンキングの送金担当と承認担当を分離する
  • 月次で経営者自身が通帳の出金履歴を直接確認する

※ 2人しかいない会社でも、ネットバンキングの作成権限と承認権限を分ける、できればダブル承認にするだけで、不正や誤送金のリスクは大きく下がります。紙の出金が残る場合は、通帳・銀行印も別管理にしてください

2

「社長が見ている」を可視化する

不正の最大の抑止力は、「見られている」という意識です。監視カメラではなく、経営者が数字を見ていることを社内に示す。

  • 月次の試算表を経営者が必ず確認し、前月との異常な変動に質問する
  • 小口現金の残高を抜き打ちで確認する(月1回でよい)
  • 経費精算の内容をランダムに1〜2件、経営者がチェックする

※ 全件チェックは不要です。「社長がランダムに見ている」という事実が抑止力になります

3

「言える空気」を作る — 内部通報の仕組み

ニデック不正会計問題では、社内に「赤字は悪」という企業文化があり、悪い情報がトップに上がらない構造でした。中小企業でも同じ問題は起こります。

  • 「言える空気」を作るため、社内窓口とは別に、外部の相談ルートも用意しておく(外部委託の通報窓口、第三者窓口、必要に応じた弁護士相談など)
  • 「悪い報告をした人は評価する」というメッセージを経営者自身が繰り返し発信する
  • 通報者の秘密を絶対に守る(守れなければ、誰も通報しなくなる)

※ 従業員300人超の企業は公益通報者保護法により内部通報制度の整備が義務。300人以下でも努力義務です

4

社内規程を「作って」「使う」

多くの中小企業は、就業規則はあっても経理規程や稟議規程がありません。あっても形だけで、実際には運用されていない。

  • 出金承認規程:一定額以上の出金には経営者の承認を必須にする
  • 稟議規程:新規取引先との契約、一定額以上の発注に稟議プロセスを設ける
  • 不正防止規程:懲戒処分の基準と手順を明文化する

※ 完璧な規程を目指す必要はありません。「ルールが存在し、運用されている」という事実が重要です

5

外部の目を入れる — 定期的な第三者チェック

社内だけで不正を発見するのは限界があります。定期的に外部の専門家の目を入れることが、最も確実な予防策です。

  • 顧問税理士に異常仕訳のチェックを依頼する
  • 社内規程の整備や運用確認は、内容に応じて適切な専門家に確認してもらう(就業規則等は社労士、会計統制は税理士・公認会計士、法的対応は弁護士
  • 年1回、経理業務の棚卸しを行う(業務フローの確認、権限の見直し)

※ ニデックでは社外取締役が過半を占める体制であっても、実効的な牽制が十分に機能しませんでした。「外部の目」は、形式ではなく実質が重要です

2026年12月施行:公益通報者保護法の改正ポイント

不正防止に関連して、2026年12月1日に改正公益通報者保護法が施行されます。企業にとって見過ごせない変更が含まれています。

改正ポイント 内容
通報者への不利益取扱いに刑事罰 通報を理由とする解雇・懲戒に対し、個人は6月以下の拘禁刑or30万円以下の罰金。法人は3,000万円以下の罰金
立証責任の転換 通報後1年以内の解雇・懲戒は「通報を理由とするもの」と推定。企業側が「通報が理由ではない」ことを証明する義務
フリーランスの保護 業務委託契約者への不利益取扱いも禁止に
通報妨害の禁止 通報者の特定行為、通報しない約束をさせる行為を明確に禁止
行政措置の強化 消費者庁に立入検査権限を付与。従事者指定義務違反には命令→罰金の段階的措置

特に重要なのは「立証責任の転換」です。従来は「通報を理由に解雇された」ことを労働者側が証明する必要がありましたが、改正後は企業側が「通報が理由ではない」ことを証明しなければなりません。通報後1年以内に人事上の不利益を与えた場合、その理由を記録・説明できる体制が必須になります。

よくある質問

Q

Q1. 社員数名の会社でも、不正防止の仕組みは必要ですか?

必要です。むしろ、少人数の会社ほど「一人に権限が集中しやすい」ため、リスクは高いです。大掛かりな仕組みは不要ですが、「通帳と銀行印を別々の人が管理する」「月次で社長が出金を確認する」という最低限の分離は行ってください。

Q

Q2. 内部通報制度は、従業員300人以下の会社にも必要ですか?

法律上は「努力義務」ですが、2026年12月の改正法では、通報者への不利益取扱いに対する刑事罰が全ての企業に適用されます。制度がなくても通報は法律上保護されるため、制度を整備していない企業は、通報に対してどう対応すべきか判断に迷い、かえってリスクが高まります。

Q

Q3. 中小企業は、不正防止のためにどの専門家をどう使い分ければよいですか?

内部統制は一人の専門家で完結しません。会計統制は税理士・公認会計士、労務ルールや通報制度の運用は社労士、法的リスク対応は弁護士、行政対応や許認可関連書類は行政書士というように、課題ごとに役割を分けるのが実務的です。

Q

Q4. ニデックのような大規模不正を防ぐには、どこから手をつければいいですか?

まず「不正のトライアングル」の3要素のうち、最もコントロールしやすい「機会」を潰すことから始めてください。具体的には、経理業務の権限分離、経営者による定期的な数字の確認、出金承認フローの整備です。「動機」や「正当化」は人の内面の問題なので完全にはコントロールできませんが、「機会」は仕組みで潰せます。

まとめ — 不正防止チェックリスト

ニデック不正会計問題から学べることを、自社に当てはめて確認してください。

  • 通帳と銀行印(またはネットバンキングの送金権限と承認権限)が別の人間にあるか
  • 経営者が月次で出金履歴を直接確認しているか
  • 一定額以上の出金に承認フローがあるか
  • 経費精算をランダムにチェックする仕組みがあるか
  • 悪い報告を評価する文化が社内にあるか
  • 内部通報制度(または外部相談窓口)が存在するか
  • 社内規程(経理規程・稟議規程・不正防止規程)が整備され、運用されているか
  • 外部の専門家による定期的なチェックを受けているか

不正は「悪い人間」が起こすのではない。「悪い構造」が普通の人間を不正に追い込む。構造を変えるのは、経営者の仕事です。

行政書士からのアドバイス

知能犯捜査のプロとして10年以上、詐欺・横領・背任・贈収賄の捜査に従事してきました。犯罪者を何百人と取り調べてきた経験から断言できることがあります。

「この人が不正をするとは思わなかった」——この言葉を、被害者から何度聞いたかわかりません。

不正を行った人間の多くは、普段は真面目で、信頼されていた人です。問題は人ではなく、構造にある。だからこそ、構造を変えることで不正は防げます。

「うちの会社の内部統制は大丈夫か」「社内規程を整備したい」「公益通報者保護法への対応方法を知りたい」——まずはお気軽にご相談ください。

初回相談は無料です。

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田原 靖弘

この記事の著者

田原 靖弘

特定行政書士 / 元大阪府警捜査二課刑事

大阪府警で18年間、捜査二課で詐欺・横領・企業犯罪の捜査に従事。退職後は会社役員として経営にも参画。 現在は特定行政書士として、企業の危機管理・外国人雇用支援・医療法人設立支援を行っている。

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