
💡この記事の要点 / Key Takeaways
2026年12月施行の改正公益通報者保護法で、通報者への不利益取扱いに刑事罰(企業に最大3,000万円の罰金)が新設。元大阪府警捜査二課刑事が、内部通報制度が機能しない企業の特徴と、中小企業が今すぐ取り組むべき5つの整備ステップを解説します。
2026年12月、改正公益通報者保護法が施行されます。
「うちは300人以下だから関係ない」——そう思っている経営者の方、それは危険な誤解です。
今回の改正では、通報を理由に従業員を解雇・懲戒した場合の刑事罰(企業に最大3,000万円の罰金)が新設されました。企業規模に関係なく適用されます。
元大阪府警捜査二課刑事として社内不正の捜査に携わり、民間企業の取締役として内部統制の現場に立った経験から、内部通報制度の本質と、中小企業の経営者が2026年中にやるべきことを解説します。
公益通報者保護法とは何か — 「密告」ではなく「自浄作用」
公益通報者保護法は、企業内部の不正を通報した人を保護するための法律です。2004年に制定され、2022年に大きく改正されました。そして2025年6月に再び改正法が成立し、2026年12月1日に施行されます。
捜査二課で企業犯罪を数多く捜査してきた経験から断言します。不正が外部に発覚する前に内部で発見・是正できるかどうかが、企業の命運を分けます。
消費者庁の調査によると、企業不正の発見経路の第1位は「内部通報」です。上司のチェックでも内部監査でもなく、現場の声がもっとも不正を見つけている。内部通報制度とは「密告の仕組み」ではなく、企業の自浄作用を制度化したものなのです。
2022年改正で何が変わったか — 現行法の基本
まず、現在施行されている2022年改正のポイントを押さえておきましょう。
① 内部通報体制の整備義務化
従業員300人超の企業は、内部通報に対応する体制の整備が法的義務となりました。300人以下の中小企業は努力義務です。
ただし、努力義務だからといって何もしなくてよいわけではありません。消費者庁は中小企業に対しても報告徴収・助言・指導・勧告を行う権限を持っています。
② 公益通報対応業務従事者の指定義務
通報を受け付け、調査・是正を行う担当者(「従事者」)の指定が義務化されました。従事者には厳格な守秘義務が課され、違反した場合は30万円以下の罰金が科されます。
③ 保護対象の拡大
従来は現職の従業員のみが保護対象でしたが、改正により退職後1年以内の退職者や役員(取締役・執行役員)も保護対象に追加されました。
2025年改正(2026年12月施行)の5つの重要変更点
ここからが本題です。2026年12月1日施行の改正法は、これまでの法律を大きく強化する内容になっています。
変更点①:不利益取扱いに刑事罰を新設
今回の改正で最も衝撃的な変更点です。通報した従業員に対して解雇または懲戒処分を行った場合、刑事罰が科されます。(※配置転換や嫌がらせ等は刑事罰の対象外ですが、民事上の違法性は問われます)
- 行為者(経営者・上司):6月以下の拘禁刑 または 30万円以下の罰金
- 企業:3,000万円以下の罰金
元刑事として申し上げます。これは「行政指導で済む話」から「刑事事件になる話」に変わったということです。経営者個人が逮捕・起訴される可能性があるのです。
変更点②:立証責任の転換
通報後1年以内(または事業者が通報の事実を知ってから1年以内)に行われた解雇や懲戒処分は、「通報を理由に行われたもの」と推定されます。
つまり、「通報とは関係ない正当な理由で処分した」と証明する責任が企業側に移るのです。これまでは従業員が「通報を理由に処分された」と証明しなければなりませんでした。この立証責任の転換は、通報者保護を格段に強化するものです。
変更点③:通報者探索の禁止
「誰が通報したんだ」——これまで多くの企業で行われてきた「犯人探し」が、法律で明確に禁止されます。正当な理由なく通報者を特定する目的で、通報の有無を聞き出す行為が禁止対象です。
変更点④:通報妨害行為の禁止と合意の無効
従業員に対して「通報しない」旨の合意を求めることが禁止されます。たとえ退職時の秘密保持契約に「在職中に知り得た情報を外部に開示しない」と記載していても、公益通報を妨げる内容であればその部分は無効となります。
変更点⑤:フリーランスの保護対象追加
業務委託関係にあるフリーランスや、業務委託終了後1年以内のフリーランスも公益通報者として保護されるようになります。外注先からの通報も保護対象です。
元刑事が見た「通報制度が機能しない企業」の3つの特徴
捜査二課時代、数多くの企業不正を捜査しました。その中で感じた「内部通報が機能していない企業」には、共通する特徴があります。
特徴①:通報窓口が社長の直属にある
社長自身が不正に関与しているケースや、社長の側近が問題の当事者であるケースは珍しくありません。通報窓口が社内の権力構造に組み込まれている限り、本当の不正は通報されません。外部窓口(弁護士・行政書士等の専門家)の設置が不可欠です。
特徴②:「通報した人」が特定される
匿名性が確保されていない通報制度は、通報制度とは呼べません。捜査の現場で何度も見ました——通報した人が「裏切り者」扱いされ、退職に追い込まれるケースを。改正法で通報者探索が禁止された背景には、こうした現実があります。
特徴③:通報しても何も変わらない
「通報したのに何も対応されなかった」——これが最も危険です。対応されないとわかった従業員は、次に外部に通報します。マスコミや監督官庁への通報です。そうなれば企業のダメージは桁違いに大きくなります。
「形だけの制度」は、「制度がない」よりもタチが悪い。不正を見て見ぬ振りをする組織に、人は信頼を寄せません。
中小企業でも整備すべき5つの理由
「300人以下だから努力義務で済む」と安心していませんか。以下の理由から、中小企業こそ内部通報制度を整備すべきです。
- 不利益取扱いの刑事罰は企業規模に関係なく適用される
通報者への報復は、従業員数に関係なく犯罪になります。 - 立証責任の転換も全企業に適用される
通報後1年以内の処分は「通報理由」と推定されるため、裁判で企業が不利になります。 - 中小企業ほど不正が見えにくい
少人数の組織では「見て見ぬ振り」が常態化しやすく、通報窓口がないと不正が長期化します。 - 取引先からの信頼に直結する
大企業はサプライチェーン全体のコンプライアンスを重視しています。通報制度の有無が取引条件に影響するケースが増えています。 - 外部への通報を防ぐ最良の手段
社内に安全な通報先がなければ、従業員はマスコミや監督官庁に直接通報します。その損害は内部対応の比ではありません。
内部通報制度の整備 — 5つのステップ
2026年12月の改正法施行に向けて、今から準備を始めてください。
ステップ1:通報窓口を設置する
社内窓口と社外窓口の両方を設置することを推奨します。社内窓口は総務部門や法務部門に、社外窓口は弁護士や行政書士などの外部専門家に委託するのが効果的です。匿名通報を受け付けられる仕組み(専用メールアドレス・Webフォーム等)も検討してください。
ステップ2:公益通報対応業務従事者を指定する
通報の受付・調査・是正を担当する「従事者」を正式に指定し、書面で通知します。従事者には守秘義務が課されるため、その範囲と責任を明確にする必要があります。
ステップ3:社内規程・マニュアルを整備する
通報の受付から調査、是正措置、通報者への結果通知までの手順を規程化します。特に、通報者の匿名性確保、不利益取扱いの禁止、通報者探索の禁止を明文化することが重要です。
ステップ4:全従業員に周知・研修を実施する
制度があっても知られていなければ意味がありません。全従業員に対して、通報制度の存在・利用方法・保護の内容を周知してください。経営層・管理職向けの研修(通報者への不利益取扱い禁止の徹底)も必須です。
ステップ5:定期的に見直し・改善する
制度は「作って終わり」ではありません。通報件数、対応状況、従業員の認知度を定期的にモニタリングし、改善を続けることが改正法の求める「実効性」です。
対応スケジュール — 2026年内にやるべきこと
改正法の施行日(2026年12月1日)から逆算したスケジュールです。
- 2026年上半期 — 現行制度の総点検。社内規程の改定方針を決定。外部窓口の委託先を選定
- 2026年7〜9月 — 改正法対応の社内規程・マニュアルを策定。従事者の再指定
- 2026年10〜11月 — 全従業員への周知・研修を実施。通報窓口のテスト運用
- 2026年12月1日 — 改正法施行
⚠️ 注意
施行日は2026年12月1日ですが、改正法には準備期間を考慮した猶予規定がありません。施行日時点で体制が整っていなければ、その日から違反状態となります。今すぐ着手してください。
よくある質問
Q1. 従業員10人の会社でも内部通報制度は必要ですか?
法的には「努力義務」ですが、実質的には必要です。通報者への不利益取扱いの刑事罰は企業規模に関係なく適用されます。また、少人数の組織ほど人間関係が密接で、不正を指摘しにくい環境にあります。簡易な形でも外部通報窓口を設けることをお勧めします。
Q2. 虚偽の通報で会社が振り回されませんか?
公益通報者保護法が保護するのは「不正の目的でなく」行われた通報です。悪意による虚偽の通報は保護の対象外です。ただし、通報があった場合は真偽に関わらず適切に調査する義務があります。調査の結果、虚偽とわかれば対処すればよいのであり、「虚偽通報を恐れて制度を作らない」のは本末転倒です。
Q3. 行政書士に内部通報制度の整備を相談できますか?
内部通報規程は就業規則の附属規程に位置づけられるため、規程の作成・届出は社会保険労務士(または弁護士)の業務範囲となります。一方、行政書士は外部通報窓口としての役割を担うことが可能です。当事務所では、元捜査二課刑事としての不正捜査経験を活かし、コンプライアンス体制の設計アドバイスや不正リスクの分析を行うとともに、社労士・弁護士と連携して制度整備を総合的にサポートしています。
Q4. 通報があった場合、どう対応すればよいですか?
基本的な対応の流れは、①通報の受付・記録、②事実関係の調査(証拠の保全を含む)、③是正措置の実施、④通報者への結果のフィードバック、⑤再発防止策の策定です。調査にあたっては通報者の秘密を厳守し、通報者への不利益取扱いが行われていないかも確認する必要があります。
まとめ — 内部通報制度は「経営者の覚悟」の表明
改正のポイントを整理します。
- 2026年12月1日、改正公益通報者保護法が施行
- 通報者への解雇・懲戒に刑事罰を新設(企業に最大3,000万円の罰金)
- 通報後1年以内の処分は「通報理由」と推定(立証責任の転換)
- 通報者探索の禁止、通報妨害の禁止
- フリーランスも保護対象に追加
- 300人以下の中小企業でも、刑事罰の規定は適用される
内部通報制度を整備するということは、「うちの会社は不正を許さない」という経営者の覚悟を、従業員と社会に対して宣言することです。
捜査の現場を経験した者として、一つだけ確かなことがあります。不正は、見つからなければエスカレートします。小さな不正を放置すれば、やがて会社を潰すほどの問題に成長します。内部通報制度は、その連鎖を断ち切る最初の一手です。
💡 行政書士からのアドバイス
2026年12月の改正法施行まで、あと9ヶ月です。「うちは小さいから」「まだ時間がある」と先送りにしていると、施行日に間に合いません。
当事務所では、外部通報窓口の受託、コンプライアンス体制の設計アドバイス、不正リスクの分析を行っています。通報規程の作成は社労士、法的紛争は弁護士——それぞれの専門家と連携し、内部通報制度の整備をワンストップでサポートします。元捜査二課刑事として不正捜査の経験を持つ行政書士だからこそ、「形だけの制度」ではなく「実際に不正を見つけられる仕組み」を一緒に作れます。
初回相談は無料です。お気軽にお問い合わせください。




