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詐欺の立証は難しい?|元刑事が教える「騙す意思」の証拠の集め方と刑事告訴

公開: 2026/3/31
田原 靖弘
12 min read

詐欺罪(刑法246条)における「騙す意思(故意)」の立証方法と証拠の集め方を、元大阪府警捜査二課刑事・特定行政書士が実務経験に基づいて解説する。

💡この記事の要点 / Key Takeaways

「騙された」と「詐欺罪」の間には大きな溝があります。最大のハードルは「最初から騙すつもりだった」という故意の証明。警察が「民事不介入」と言う本当の理由、行動パターンから故意を推認する方法、捜査官が「動ける」告訴状の作り方まで、元大阪府警捜査二課刑事が詐欺事件の立証と証拠収集を実務経験に基づいて解説します。

田原 靖弘
✍ この記事の執筆者

田原 靖弘元大阪府警捜査二課刑事 / 特定行政書士

大阪府警で約18年間、主に知能犯捜査に従事。詐欺・横領・背任などの告訴状の受理判断を捜査側から数多く経験しています。

「明らかに騙されたのに、警察に相談したら『これは民事の問題です』と言われてしまった」――詐欺被害に遭った方から最も多く聞く言葉です。

なぜ、被害に遭ったのに犯罪として扱ってもらえないのか。その理由は、詐欺罪の立証における最大のハードル、「騙す意思(故意)」の証明にあります。「最初からお金を返すつもりがなかった」ことを客観的に証明しなければ、どれだけ被害額が大きくても刑事事件にはなりません。

この「故意の立証」こそ、捜査経験の有無で決定的に差がつく領域です。この記事では、元大阪府警捜査二課刑事として詐欺事件の捜査に携わった行政書士が、「騙す意思」の証拠の集め方と、警察に受理される告訴状の作成ポイントを解説します。

詐欺罪の成立要件 — 何を証明すれば「詐欺」になるのか

詐欺罪(刑法246条)は、「人を欺いて財物を交付させた者は、10年以下の拘禁刑に処する」と定められています。罰金刑の規定がなく、懲役(拘禁刑)のみという重い犯罪です。

詐欺罪が成立するには、以下の4つの要件を全て満たす必要があります。

1

欺罔行為(ぎもうこうい):相手を騙す行為。虚偽の事実を告げる、重要な事実を隠す等。

2

錯誤:騙された結果、被害者が事実を誤認すること。

3

処分行為:誤認に基づいて、被害者が財産を渡す行為(送金、契約締結等)。

4

財産の移転:加害者側に財産が移ること。

これらに加えて、主観的要件として故意(騙す意思)不法領得の意思が必要です。そして、この「最初から騙すつもりだったのか」の証明が、詐欺事件で最も難しいポイントです。

「民事上の債務不履行」と「刑事上の詐欺」の分かれ目

お金を借りて返せなくなった場合、それだけでは詐欺にはなりません。借りた時点で返す意思があったなら「債務不履行」(民事の問題)です。しかし、最初から返す意思も能力もなかったのであれば「詐欺」(刑事の問題)になります。この境界線を客観的証拠で示すことが、告訴のカギです。

刑事告訴の基本的な手続きについては、「刑事告訴とは?告訴状の書き方から提出・受理まで」で詳しく解説しています。

なぜ詐欺の告訴は受理されにくいのか

詐欺の告訴が受理されにくい最大の理由は、警察が「民事不介入」の原則を盾にすることです。しかし、元捜査員の立場から言えば、これには裏の事情があります。

警察が「民事不介入」と言う本当の理由

現場の捜査員が「これは民事ですね」と対応を避ける場合、多くは以下のような判断が働いています。

  • 故意の立証が見通せない:告訴状を見ても、「最初から騙すつもりだった」と裏付ける証拠が示されていない
  • 捜査の手がかりがない:何をどう調べれば立証できるのか、捜査の道筋が見えない
  • 他の被害者情報がない:同一人物による他の被害が確認できず、計画性を推認できない

つまり、告訴する側が「これは民事ではなく刑事である」ことを証拠で示すことができれば、警察も受理せざるを得ないのです。

「返す気はあった」と言われたら終わり?

詐欺の被疑者は必ず「返すつもりだった」「事業がうまくいかなかっただけ」と主張します。これを覆すには、行動の客観的な事実を積み上げるしかありません。

捜査側の視点では、以下のような事実があれば「返す気がなかった」と推認できます。

  • 借入時点で、既に多額の負債を抱えていた
  • 複数の相手から同時期に借り入れをしていた
  • 事業計画や返済計画に具体性がなく、実行する能力もなかった
  • 借りた金を事業に使わず、私的に消費していた
  • 経歴や資格、取引実績を偽っていた

「騙す意思」の証拠はこうやって集める

ここが記事の核心です。何が証拠になるのか、それをどうやって入手するのか――この視点は、捜査の現場で数多くの詐欺事件と向き合う中で培われるものです。捜査とは、現実の世界で起きたことを法的な意味を持つものに変換する行為です。

行動パターンから故意を推認する — 元刑事の視点

詐欺の故意は、犯人の頭の中にあるものですから直接的な証拠はありません。しかし、行動パターンの積み重ねから推認することができます。

パターン1:同時期の多重借入・多重被害

同じ時期に複数の相手から金銭を集めていた事実は、「返済する意思も能力もなかった」ことの強力な推認材料です。他に被害者がいないかを調査し、被害の全体像を把握することが重要です。

パターン2:虚偽の経歴・資格・取引実績

「元○○銀行の幹部」「○○の資格保有」「○○社との取引実績あり」など、相手の主張が虚偽であることを裏付けます。登記簿謄本、資格の有無の照会、取引先への確認などで客観的に検証できます。

パターン3:返済原資の不存在

「投資で増やして返す」と言っていたのに、実際にはそのような投資活動の実態がなかった。借りた金を事業に使わず、高級品の購入や遊興費に充てていた。入出金記録から資金の流れを追跡することで、返済意思の不存在を立証できます。

証拠として使える書類・データの具体例

以下の書類・データは、故意の立証に使える可能性があります。

  • 契約書・覚書:相手が約束した内容と実際の行動の乖離を示す
  • メール・LINE・チャット:虚偽の説明や約束の証拠。日時が自動記録されるため証拠力が高い
  • 入出金記録:銀行口座の取引明細から資金の流れを追跡。返済原資の不存在を証明
  • 登記簿謄本:法人の設立時期、所在地、役員構成。ペーパーカンパニーかどうかの判断材料
  • SNS投稿:「事業が好調」と謳いながら実際には借金を重ねている矛盾を示す
  • 信用調査報告書:帝国データバンクや東京商工リサーチの企業情報

これらの証拠を「嘘」を時系列で可視化する形で整理します。「いつ、何を言い、実際はどうだったか」を年表のように並べると、故意のパターンが浮かび上がります。

企業間取引詐欺(取り込み詐欺)で重視すべき証拠

取り込み詐欺は、最初は少額の正常な取引を繰り返して信用を築き、信用ができた段階で大量発注して商品を持ち逃げする手口です。以下の兆候がある場合は要注意です。

  • 急な大量発注:それまでの取引規模と不釣り合いな発注量
  • 設立間もない法人:登記簿で確認できる。設立から数ヶ月〜1年程度の法人は要注意
  • 実態のない事業所:バーチャルオフィスやレンタルオフィスの住所のみ
  • 支払条件の急な変更要求:「今回だけ月末締め翌々月払いにしてほしい」等
  • 連絡が取りにくくなる:電話に出ない、メールの返信が遅れる

詐欺の手口についてより詳しく知りたい方は、「詐欺師の手口と見抜き方|投資詐欺・取り込み詐欺・AI音声詐欺への防衛術」も併せてご覧ください。

告訴状の作成 — 捜査官が「動ける」構成にする

詐欺の告訴状を何百と見てきた経験から言えることがあります。法律論としては正確でも、捜査の現場から見ると「これでは動けない」と感じる告訴状が少なくありませんでした。

多くの告訴状に欠けている視点

法律論として完成度の高い告訴状は数多くあります。詐欺罪の構成要件への当てはめも正確です。しかし、捜査機関が求めているのは法律論だけではありません。「次にどこを調べればいいか」の道筋が示されていなければ、捜査に着手しにくいのです。

元刑事が告訴状で重視する3つの要素

①故意を推認できる客観的事実の積み上げ

「騙された」という被害者の主観ではなく、「この行動パターンは詐欺の故意を推認させる」と捜査官が判断できる客観的事実を、時系列で整理して記載します。

②他にも被害者がいる可能性の示唆

同一人物による他の被害者情報や、同様の手口が繰り返されている形跡を示します。組織的・計画的な犯行であることを示唆できれば、捜査機関にとって捜査する価値が格段に高まります。

③捜査機関が次にどこを調べればよいかの道筋

「この口座を調べれば資金の流れがわかる」「この登記簿を見れば法人の実態がわかる」「この人物に事情を聞けば裏付けが取れる」――捜査の具体的な道筋を示すことで、捜査官が動きやすくなります。

詐欺類型別の証拠収集の急所

投資詐欺(ポンジスキーム含む)

投資詐欺で最も重要な証拠は、「約束されたリターンの実現可能性がなかったこと」の立証です。

  • 勧誘時の説明資料(パンフレット、メール、録音)を保全する
  • 実際の運用実態を調査する(金融庁への届出の有無、運用会社の実態)
  • 配当金の原資が新規投資者の出資金(ポンジスキーム)であることを入出金で追跡
  • 同じ勧誘を受けた他の被害者を特定し、被害の全体像を把握する

捜査二課の視点:出資法違反という別ルート

ポンジスキームの場合、「運用しようとしていたが失敗した」と主張されると詐欺罪の故意の立証が難航することがあります。そのような場合でも、不特定多数から元本保証を謳って資金を集めた事実が立証できれば、出資法違反(預り金の禁止等)での告発を視野に入れた二段構えの戦略を構築できます。本丸(詐欺罪)が攻め落とせなくても、確実に立件に持ち込む道筋を用意しておくことが重要です。

取り込み詐欺(企業間取引)

取り込み詐欺の証拠収集では、「最初から商品代金を支払う意思がなかった」ことの立証が焦点です。

  • 取引開始時期と法人設立時期の近さ(計画的な犯行を示唆)
  • 発注量の急激な増加パターン(信用構築→大量発注→逃走の典型パターン)
  • 同業他社にも同時期に同様の発注をしていないかの調査
  • 法人の財務状況(決算書が入手できれば支払能力の不存在を証明)

ネット詐欺(EC・副業詐欺など)

ネット詐欺では、証拠がデジタルデータに集中するため、保全のスピードが命です。

  • サイトのURL、ページ全体のスクリーンショット、ソースコードを保全
  • 取引時のメール・チャットの全履歴を保存(ヘッダー情報含む)
  • 送金記録・決済記録のスクリーンショットと明細書
  • 相手のアカウント情報、プロフィール画面、商品説明ページを保全

刑事告訴後の流れと民事回復との連携

告訴が受理された後の基本的な流れ(告訴受理→捜査→送検→起訴/不起訴→処分通知)は、「刑事告訴とは?告訴状の書き方から提出・受理まで」で詳しく解説しています。

ここでは、詐欺事件ならではの民事回復との連携戦略について解説します。

刑事捜査で集まった証拠を民事で活用する

刑事告訴の最大のメリットの一つは、捜査機関が持つ強制力を使って証拠が集まることです。

  • 口座の凍結・取引明細の確保:刑事告訴と並行して『振り込め詐欺救済法』に基づく口座凍結を金融機関に申請する方法があります。また、捜査機関が証拠として口座の取引履歴を差し押さえる過程で、結果的に資金の散逸を防ぎ、民事回復の手がかりとなるケースもあります
  • 資産状況の判明:捜査の過程で被疑者の資産状況が明らかになり、民事の強制執行の手がかりになる
  • 共犯者の特定:捜査で組織の全体像が判明すると、損害賠償の請求先が広がる

不起訴になった場合の選択肢

  • 検察審査会への申立て:有権者から選ばれた11名が不起訴の当否を審査する制度
  • 民事訴訟への集中:刑事が不起訴でも民事で損害賠償を請求することは可能。刑事手続きの過程で得た情報を活用する

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田原 靖弘

この記事の著者

田原 靖弘

特定行政書士 / 元大阪府警捜査二課刑事

大阪府警で18年間、捜査二課で詐欺・横領・企業犯罪の捜査に従事。退職後は会社役員として経営にも参画。 現在は特定行政書士として、企業の危機管理・外国人雇用支援・医療法人設立支援を行っている。

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