
計画倒産とは、当初から債務を支払う意思がないまま取引を行い、財産を別会社へ移したうえで事業を畳む行為をいう。典型的には、①債務を残して器を薄くする、②責任の所在を1人に集約する、③資金の移動を正当な支払いの形に整える、④記録が出そろう時期まで時間を稼ぐ、という順で組み立てられる。発注の時点で支払う意思も能力もなかった場合は詐欺罪(刑法246条・十年以下の拘禁刑)が問題となり、これには倒産や破産手続の要件がない。破産法の罰則(265条の詐欺破産罪、266条の特定の債権者に対する担保の供与等の罪、270条の物件の隠滅等の罪)は、いずれも行為の時期を問わない一方で、対象となった債務者について破産手続開始の決定が確定していることを処罰の条件とする。破産手続開始の申立ては債権者の側からもできる(破産法18条1項)。(行政書士田原靖弘事務所|元大阪府警捜査二課刑事・特定行政書士 田原靖弘 監修)
💡この記事の要点 / Key Takeaways
計画倒産には型があります。債務を残して器を薄くし、責任を1人に集め、資金の移動を正当な支払いの形に整え、記録が出る時期まで時間を稼ぐ。元大阪府警捜査二課の刑事が、この4つの手順と、詐欺罪・詐欺破産罪で立ちはだかる4つの壁、そして手順ごとにどこへ足跡が残るのかを、条文を引いて解説します。

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無料相談いま、とある政治団体の政党交付金をめぐる報道が続いています。そこで「計画倒産」「受け子」といった言葉が、本来の意味とは違う場面で使われているのを目にした方も多いと思います。
この記事では、その事案がどうであったかには立ち入りません。書くのは、本来の意味のほうです。組織を畳んで責任だけを置いていくとき、実際にどういう順番で組み立てられるのか。そして、取引先として巻き込まれた側に何ができるのか。
「法的にセーフ」と「やっていない」は、違う
捜査の現場に長くいると、報道の言葉づかいに引っかかることがあります。「違法性は認められなかった」という一文です。
これを読んだ多くの方は、「何もなかったのだ」と受け取ります。しかし捜査側にいた人間は、別の読み方をします。要件に当てはめられなかった、という意味だと読むのです。
刑事事件になるかどうかは、行為の悪質さでは決まりません。条文が求める要件に、証拠で当てはめられるかどうかで決まります。誰が見ても腹の立つ話でも、要件のどれか一つを証拠で埋められなければ、立件には至りません。
つまり、こういうことです。
- 「立件できない」は、証明の問題
- 「やっていない」は、事実の問題
この2つは、まったく別のものです。そして逃げ切る側が狙っているのは、常に前者のほうです。
私は大阪府警で18年間、多くの現場で捜査に携わってきました。事件にならないと分かる瞬間も、何度も経験しています。被害に遭った方に説明するのが、最もつらい場面です。
だからこそ、書いておきたいことがあります。逃げ切りには、型があります。 型がある以上、どこに足跡が残るかも決まっています。
計画倒産で逃げ切る側が踏む、4つの手順
以下は、捜査の側から繰り返し目にしてきた組み立て方です。特定の誰かの話ではありません。会社であれ団体であれ、組織を畳んで責任だけを置いていくときの型として、ほぼ共通しています。
手順1 ― 債務を残したまま、器を薄くする
最初に起きるのは、中身の移動です。
設備、在庫、車両、取引先との契約、そして人。事業として価値のあるものが、別の会社へ移っていきます。従業員も一緒に移ることが珍しくありません。
移した先は、たいてい畳む少し前に設立された会社です。事業目的が似ていて、本店が同じ住所か近所にあり、役員に身内の名前が入っていることもあります。
そして元の法人に残るのは、債務と、空になった器です。
この時点では、まだ何も違法ではないように見えます。事業譲渡も会社分割も、それ自体は適法な制度だからです。
この形は、工事や納品が先行して代金が後から入る業種ほど起こりやすくなります。建設業の下請、資材や車両の卸、システムの受託開発のように、先に働いてから請求する取引では、畳まれた時点で回収できていない額が大きくなるためです。
手順2 ― 責任の所在を、1人に集約する
次に動くのが、人です。
実際に方針を決めていた人物が、役員から抜けます。代わりに、残務処理をする立場の人間が1人だけ残る。肩書きの上では、この人が最後の責任者になります。
これが効くのは、刑事の立証では「誰が決めたのか」を特定しなければならないからです。決裁の経路が曖昧なまま関与者が散ってしまうと、故意を誰に帰属させるかが決まらなくなります。
残された側は、決めていないのに責任だけを負う立場に置かれます。決めていた側は、記録上そこにいません。
手順3 ― 資金の流れを「正当な支払い」の形に整える
ここが、いちばん重要な手順です。
資産をそのまま持ち出せば、隠匿と判断されます。ですから、形を整えます。契約書を作り、請求書を出し、業務委託料や外注費、コンサルティング料といった名目で支払う。振込の記録も残します。
支払う相手を選ぶ、という形をとることもあります。ただし、期限が来ている債務を約束どおり払うこと自体は、他の取引先が取り残される結果になっても、それだけで犯罪にはなりません。義務を果たしているからです。
問題になるのは、そこから外れた動き方のほうです。まだ払う期限が来ていない相手に先に払う。担保を出す義務がないのに担保を出す。約束と違う方法で決済する。形式の上ではどれも「支払い」ですが、義務の範囲を超えています。
形式が整っているほど、立証は難しくなります。書類の上では、対価のある正当な取引に見えるからです。あとは、その対価が実態に見合っていたかどうかの勝負になります。
そして対価の相当性は、外から見ても分かりません。相場のない役務であればなおさらです。
手順4 ― 記録が出そろう時期まで、持ちこたえる
最後は時間です。
組織の記録は、リアルタイムでは公開されません。登記のように早く反映されるものもありますが、決算や各種の報告書類は、年単位で遅れて世に出ます。
その間に何が起きるか。関係者が散り、担当者が退職し、メールの保存期間が過ぎます。 記録がようやく出てくる頃には、それを裏づける人の記憶も、周辺の証拠も薄くなっている。
「そのうち明らかになる」と言われている間に、明らかにするための材料のほうが先に減っていくということです。
なぜ詐欺罪にならないのか ― 立ちはだかる4つの壁
では、この4手順を踏まれたとき、刑事ではどうなるのか。
まず前提として、計画倒産で問題になる罪は主に2つです。名前は似ていますが、成立する条件がまったく違います。
| 詐欺罪 | 詐欺破産罪 | |
|---|---|---|
| 条文 | 刑法246条 | 破産法265条 |
| 法定刑 | 十年以下の拘禁刑 | 十年以下の拘禁刑若しくは千万円以下の罰金、又は併科 |
| 捉える行為 | 払う気がないのに発注した | 債権者を害する目的で財産を隠した・移した |
| 会社の倒産 | 要件ではない | 行為の時期は問わないが、対象債務者について開始決定の確定が必要 |
| 公訴時効 | 7年 | 7年 |
刑法246条1項は「人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の拘禁刑に処する」と定めています。罰金刑の規定がない、重い犯罪です。
ここまでは、先ほどの4手順にきれいに当てはまりそうに見えます。ところが実際に組み立てようとすると、壁が現れます。
壁1 ― 誰の行為として立件するのか、決まらない
刑事責任を負うのは、法人ではなく人です。法人にも罰金を科す規定はありますが(破産法277条の両罰規定)、その前提として、行為をした個人を特定しなければなりません。
手順2がここで効いてきます。実際に方針を決めていた人物は役員から抜けていて、残務処理の立場の人だけが残っている。書類の上で最後に名前があるのはこの人ですが、決めたのはこの人ではない。一方、決めた側は記録上そこにいません。
決裁が口頭で流れていて議事録も残っていなければ、誰の故意として構成するかが定まらなくなります。
ここを越えるために要るのは、決裁が実際にどう流れていたかを示す材料です。稟議の記録、メールの宛先とCC、支払いの承認者、取引先への連絡が誰の名前で出ていたか。組織の外にいる取引先のほうが、こうした記録を持っていることがあります。
壁2 ― 発注時点の意思を、どう裏づけるか
詐欺罪で問われるのは、発注した時点で払う意思があったかです。結果として払えなくなったのなら民事の債務不履行であり、最初から払う気がなかったのなら詐欺です。
この違いは、相手の内心にあります。内心は、外に出た事実から推し量るしかありません。勝負になるのは、その材料を集められるかどうかです。
念のため書いておきますが、手元に材料がないから諦める、という話ではありません。それを集めるのが捜査です。 令状をとって帳簿を押さえ、口座の動きを追い、関係者から事情を聴く。個人にはできないことが、捜査機関にはできます。
こちら側がやるべきなのは、捜査が動き出すだけの入口を作ることです。推認の筋道と、手元にある材料を並べて示す。そこから先は捜査機関の仕事になります。
詐欺罪の構成要件と「騙す意思」の証明については、詐欺の立証が難しい理由と「騙す意思」の証明に詳しく書いています。
壁3 ― 形が整っていると、隠匿と言い切れない
手順3がここで効きます。契約書と請求書が揃い、振込記録がある支払いを「隠匿」と評価するには、対価が実態に見合っていなかったことを示さなければなりません。
相場のある取引なら比較できます。しかし助言や業務委託のような役務は、比較の基準がありません。
壁4 ― 処罰できるかどうかが、相手の手続次第になる
これが、あまり知られていない壁です。破産法265条1項は、こういう構造をしています。
破産手続開始の前後を問わず、債権者を害する目的で、次の各号のいずれかに該当する行為をした者は、債務者について破産手続開始の決定が確定したときは、十年以下の拘禁刑若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
読み方に注意が要ります。
行為そのものは、破産手続の前でも構いません。 条文が「破産手続開始の前後を問わず」と明記しているとおりです。畳む半年前に資産を移していても、対象から外れません。「破産する前のことだから関係ない」ということにはなりません。
そのうえで、処罰には「債務者について破産手続開始の決定が確定したとき」という条件がかかります。 確定が必要なのは行為者本人の破産ではなく、対象となった債務者(その法人)についての開始決定です。役員個人が問われる場合でも、受け皿になった側が問われる場合でも、見るのは会社のほうの手続です。
整理すると、こうなります。
- 行為の時期は問わない(開始決定の前でも後でもよい)
- 処罰するには、対象債務者について開始決定が確定していることが必要
実務上の意味はひとつです。行為がどれだけ明白でも、その法人が破産手続に乗っていなければ、破産法の罰則では処罰まで届きません。
そして、これは詐欺破産罪だけの話ではありません。破産法の主な罰則が、同じ構造をとっています。
- 265条・詐欺破産罪 ― 十年以下の拘禁刑、千万円以下の罰金、またはその併科。条文は「行為をした者」としており、債務者以外も主体になりえます
- 266条・特定の債権者に対する担保の供与等の罪 ― 五年以下の拘禁刑、五百万円以下の罰金、またはその併科。こちらは主体が債務者に限られます
- 270条・業務及び財産の状況に関する物件の隠滅等の罪 ― 三年以下の拘禁刑、三百万円以下の罰金、またはその併科。これも「者」なので、債務者以外も主体になりえます
3つとも「破産手続開始の前後を問わず」行為ができ、「破産手続開始の決定が確定したとき」に処罰される、という同じ形です。
266条は、他の債権者を害する目的で、特定の債権者にだけ有利な扱いをする行為を捉えます。ただし条文は対象を絞っていて、担保の供与や債務の消滅に関する行為のうち、債務者の義務に属しないもの、またはその方法や時期が義務に属しないものに限られます。
つまり、期限が来た債務を約束どおり払うのは義務の履行なので、これには当たりません。問題になるのは、期限前の弁済や、義務のない担保の差し入れなどです。手順3で触れた「義務の範囲を超えた支払い」が、ここに対応します。
270条は帳簿や書類を隠滅・偽造・変造した場合で、債務者本人以外がやった場合も含みます。
壁4は、こちらから越えられることがある
ここが大事なところです。
処罰に開始決定の確定が要る、ということは、裏を返せば手続に乗せられれば射程に入るということです。
そして破産手続の申立ては、債務者だけのものではありません。
債権者又は債務者は、破産手続開始の申立てをすることができる。(破産法18条1項)
債権者の側から申し立てられます。 申立てそのものは弁護士に依頼して進めることになりますが、この道があること自体を知らないまま諦めてしまうケースが少なくありません。
手続に乗れば、破産管財人の調査が入ります。否認権は破産管財人が行使するものとされており(破産法173条1項)、移された資産を取り戻す道が開けます。そして破産法の罰則も、届く位置に入ってきます。
つまり、「相手が破産していないから何もできない」ではありません。 費用と手間はかかりますが、こちらから手続に乗せるという選択肢があるということです。どの道を選ぶかは、債権額と、移された資産の規模とのバランスで決まります。
なお詐欺罪のほうには、倒産や破産手続の要件がそもそもありません。相手がまだ営業していても、発注の時点で騙していれば詐欺罪の問題になります。「倒産していないから詐欺ではない」ということにはなりません。
ご自身の件が当てはまるか、判断が難しいと感じていませんか
事案はひとつとして同じものがありません。元刑事としての捜査経験に基づいて、捜査機関が当該事案をどう評価するのかについての見込みをお伝えします。ご相談は無料です。
では、何が残るのか ― 記録は、必ず出る
ここまで読むと打つ手がないように思えるかもしれませんが、そうではありません。
4つの手順は、それぞれ足跡を残します。 手順が緻密であるほど、書類の上に痕跡が増えるからです。
| 相手が踏んだ手順 | どこに足跡が残るか |
|---|---|
| 手順1(器を薄くする) | 登記。別会社の設立日、事業目的、本店所在地 |
| 手順2(責任を1人に集約) | 履歴事項全部証明書。誰が、いつ抜けて、いつ入ったか |
| 手順3(支払いの形に整える) | 支払いの相手方・名目・時期。破産手続なら管財人の調査対象 |
| 手順4(時間を稼ぐ) | 遅れて出てくるだけで、記録そのものは消えない |
登記は、時系列で嘘をつけない
最も使いやすいのが登記です。誰でも取得できて、過去の変更がすべて日付入りで残っています。
別会社の設立日が、支払いが止まった時期の直前にある。役員が抜けた日が、資産が動いた時期と重なっている。本店の移転が、督促を始めた時期の直後にある。
一つひとつは「よくある話」で説明がつきます。しかし時系列に並べたとき、全部が同じ方向を向いていたら、偶然では説明できなくなります。
受け皿になった会社も、対象になることがある
破産法265条1項は、こう締めくくられています。
情を知って、第四号に掲げる行為の相手方となった者も、破産手続開始の決定が確定したときは、同様とする。
第四号は「財産を債権者の不利益に処分する行為」です。つまり、事情を知りながら資産の受け皿になった者も、同じ罰則の対象になりえます。
さらに同条2項は、破産手続開始の決定や保全管理命令が出たことを知りながら、正当な理由なく債務者の財産を取得した者、第三者に取得させた者も同様としています。
そして破産法277条の両罰規定により、法人の代表者や従業者がその法人の業務又は財産に関しこれらの違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人にも罰金刑が科されます。
民事でも、民法424条1項の詐害行為取消請求があります。ただし、利益を受けた相手方がその行為の時に債権者を害することを知らなかったときは請求できません(同条1項ただし書)。また、債権がその行為より前の原因に基づいて生じた場合に限られます(同条3項)。
そして、詐害行為取消請求には期間の制限があります。
詐害行為取消請求に係る訴えは、債務者が債権者を害することを知って行為をしたことを債権者が知った時から二年を経過したときは、提起することができない。行為の時から十年を経過したときも、同様とする。(民法426条)
刑事の公訴時効が7年あるのに対し、民事はこちらのほうが先に来ます。「資産が移されていた」と気づいた時点から2年です。ここは見落とさないでください。
刑事の265条1項後段も、民事の424条1項ただし書も、見ている事実は同じです。受け皿になった側が事情を知っていたかどうか。集めた証拠は、両方で使えます。
時効は7年。ただし、数え始めは今日ではない
詐欺罪も詐欺破産罪も法定刑は十年以下の拘禁刑ですので、公訴時効の期間は刑事訴訟法250条2項4号により7年です。
ここで注意が要ります。起算点は、被害に気づいた日ではありません。
時効は、犯罪行為が終つた時から進行する。(刑事訴訟法253条1項)
詐欺罪であれば、最後に納品や交付があった時点から数えることになります。計画倒産は気づくまでに時間がかかりますから、ご相談に来られた時点で、すでに何年分か過ぎていることが珍しくありません。
そして先に触れたとおり、民事の詐害行為取消請求は「知った時から2年」です。刑事と民事で数え方そのものが違うので、両方を確認してください。
加えて、手順4を思い出してください。相手は、時間が経つことを前提に組み立てています。 急ぐ理由は時効だけではなく、証拠の寿命のほうにもあります。
計画倒産に巻き込まれた側が、今日やること
動く前に、手元を固める
督促の連絡そのものは当然の行為です。ただ、こちらが法的手段を検討していると伝わった後は、記録が整理されることがあります。先に手元を固めてください。
| 資料 | なぜ必要か |
|---|---|
| 契約書・発注書・納品書・受領印のある書類 | 「いつ、何を、いくらで」を確定させる |
| 発注前後のメール・チャット・録音 | 欺罔行為の直接証拠になりうる。最優先 |
| 請求書と入金履歴 | 支払いが止まった時期を特定する |
| 相手方の履歴事項全部証明書 | 役員変更・本店移転・目的変更の時期(手順1・2の足跡) |
| 関連会社の登記 | 設立日と役員構成(手順1の足跡) |
| メールの宛先・CC・承認の記録 | 誰が決裁していたかを示す(壁1を越える材料) |
| 支払条件を変更したときのやり取り | サイト変更の時期と理由 |
メールやチャットは、画面の写真ではなく、送受信の日時とアドレスが分かる形で保存してください。日時が残っていないと、発注の前か後かを示せなくなります。
発注のとき、相手が何と言ったか
壁2を越えられるかどうかは、ここにかかっています。
「来月には入金がある」「大口の契約が決まった」「今回だけ待ってほしい」。発注や納品の場面で相手が語った内容は、欺罔行為そのものになりえます。
登記や資金の流れは、状況から内心を推し量るための材料です。それに対してこれは、内心が言葉になって外に出た瞬間の記録です。メール、チャット、留守番電話、議事録、手帳のメモ。形式は問いません。
告訴状の書き方と受理までの流れは刑事告訴のやり方と受理される告訴状の書き方にまとめています。
「民事の話です」と言われたときは
窓口でそう説明されることは、実際にあります。詐欺罪は刑事の犯罪であり、民事上の債務不履行とは別のものです。
分かれ目を示せるかどうかが鍵になります。発注の時点で支払う原資が存在しなかったこと、同時期に他の取引先にも同様の未払いが生じていたこと、発注の直後に資産が移されていたこと、支払条件を延ばす交渉の時期が畳んだ日と近いこと。客観的な事実を、時系列に並べて示します。
受理されなかった場合の次の一手は、告訴状が受理されなかったときにすべきことに書いています。
正直に取引した側が、損をしないために
納品した側は、約束どおりのことをしています。期日に間に合わせ、品質を守り、請求書を出した。何一つ落ち度がありません。
それなのに、畳んだ側が中身を手元に残し、納品した側だけが損を被る。この結果を当たり前にしてはいけないと、私は考えています。
そのために必要なのは、怒りを強くすることではありません。事実を、要件の形に整えることです。壁がどこにあるかが分かっているなら、そこを越えるための材料を先に押さえておく。地味な作業ですが、これが結論を変えます。
法律の知識と、事件を重ねた捜査の経験。その両方を長い年月をかけて積んで、ようやく見えてくるものがあります。私自身、それが分かるまでに相応の時間がかかりました。
取引先が畳まれて、どう動けばよいか迷っている段階でも構いません。相手が破産手続に入っているかどうか、資産がいつ動いたか。この2点が分かるだけでも、打てる手は変わります。まずはお問い合わせフォームからご相談ください。
最後に、ひとつだけ。
この種の話は、声が上がらなければ、なかったことになります。記録が出てくる頃には関心が薄れ、また同じことが始まる。それを当たり前にしてしまうのは、手順を踏んだ側ではなく、黙ってしまった側のほうです。
泣き寝入りは、次の被害者を作ります。諦めずに、声を上げること。それが、ずる賢いやり方を割に合わないものにしていく、いちばん確実な方法だと思っています。
よくある質問
Q.「違法性は認められなかった」と報じられた場合、何もなかったということですか?
必ずしもそうではありません。刑事事件になるかどうかは、行為の悪質さではなく、条文が求める要件に証拠で当てはめられるかどうかで決まります。要件のどれか一つを証拠で埋められなければ、立件には至りません。つまり「立件できない」は証明の問題であり、「やっていない」は事実の問題です。この2つはまったく別のものです。捜査の側から見ると、逃げ切ろうとする側が狙っているのは常に前者のほうです。
Q.取引先が破産手続をとらないまま消えました。詐欺破産罪は使えませんか?
条文の構造を正確に押さえる必要があります。破産法265条1項は「破産手続開始の前後を問わず」行為ができると定めており、畳む前に資産を移していても対象から外れません。その上で、処罰には「債務者について破産手続開始の決定が確定したとき」という条件がかかります。確定が必要なのは行為者本人の破産ではなく、対象となった債務者(その法人)についての開始決定です。つまり行為の時期は問わず、処罰まで届くには対象債務者について開始決定が確定していることが必要という構造になっています。そして破産法18条1項は「債権者又は債務者は、破産手続開始の申立てをすることができる」と定めていますので、債権者の側から手続に乗せる道があります。なお詐欺罪には倒産や破産手続の要件がありませんので、そちらは相手の状態に関係なく検討できます。
Q.資産を移した後に代表者が交代しました。これは何を意味しますか?
刑事責任を負うのは法人ではなく人です。破産法277条には法人にも罰金を科す両罰規定がありますが、その前提として行為をした個人を特定しなければなりません。実際に決めていた人物が役員から抜け、残務処理の立場の人だけが残ると、誰の故意として構成するかが定まりにくくなります。ただし、役員がいつ抜けていつ入ったかは履歴事項全部証明書にすべて日付入りで残ります。交代の時期が資産の移動や支払いの停止と重なっているのであれば、時系列そのものが材料になります。加えて、決裁が実際にどう流れていたかを示すメールの宛先やCC、承認の記録は、取引先側が持っていることがあります。
Q.計画倒産の時効は何年ですか?
詐欺罪も詐欺破産罪も法定刑は十年以下の拘禁刑ですので、公訴時効の期間は刑事訴訟法250条2項4号により7年です。ただし起算点に注意が必要です。刑事訴訟法253条1項は「時効は、犯罪行為が終つた時から進行する」と定めており、被害に気づいた日からではありません。詐欺罪であれば、最後に納品や交付があった時点から数えることになります。計画倒産は発覚まで時間がかかるため、ご相談の時点ですでに何年分か過ぎていることが珍しくありません。さらに、民事の詐害行為取消請求は「債権者が知った時から2年、行為の時から10年」という別の期間制限です(民法426条)。刑事と民事で数え方が違いますので、両方を確認してください。
Q.資産を引き受けた別会社にも、責任を問えますか?
問えることがあります。破産法265条1項は末尾で「情を知って、第四号に掲げる行為の相手方となった者も(中略)同様とする」と定めており、事情を知りながら債権者に不利益な財産処分の相手方になった者も、同じ罰則の対象になりえます。また同条2項は、破産手続開始の決定や保全管理命令が出たことを知りながら、正当な理由なく債務者の財産を取得した者、第三者に取得させた者も同様としています。さらに破産法277条の両罰規定により、法人の代表者や従業者がその法人の業務又は財産に関して違反行為をしたときは、行為者のほか法人にも罰金刑が科されます。民事では民法424条1項の詐害行為取消請求がありますが、期間制限に注意してください。債権者が害する行為を知った時から2年、行為の時から10年を過ぎると訴えを提起できません(民法426条)。刑事の公訴時効7年より先に来ることがあります。
Q.証拠が少ないのですが、それでも告訴できますか?
相手の内心を被害者が直接のぞくことはできません。内心は、外に出た事実から推し量るものです。重要なのは証拠の量ではなく、発注の時点の意思を推認させる事実が押さえられているかどうかです。とくに価値が高いのは、発注や納品の場面で相手が語った内容の記録です。「来月には入金がある」「大口の契約が決まった」といった言葉は、欺罔行為そのものになりえます。メールやチャットは画面の写真ではなく、送受信の日時とアドレスが分かる形で保存してください。日時が残っていないと、発注の前か後かを示せなくなります。
Q.取引先が、うちには払わずに別の会社にだけ支払っていました。これは犯罪ですか?
それだけでは犯罪になりません。期限が来ている債務を約束どおり払うのは義務の履行であり、結果として他の取引先が取り残されても、その一事で罪に問われるものではありません。破産法266条は特定の債権者を有利に扱う行為を捉える条文ですが、対象を「担保の供与又は債務の消滅に関する行為であって債務者の義務に属せず又はその方法若しくは時期が債務者の義務に属しないもの」に限定しています。つまり、まだ期限が来ていない債務を先に払った、義務がないのに担保を差し入れた、約束と違う方法で決済した、といった義務の範囲を超えた動きが問題になります。加えて、他の債権者を害する目的があったこと、その法人について破産手続開始の決定が確定したことも必要です。支払いの時期と、契約上の支払期日を並べて確認してみてください。

この記事の著者
田原 靖弘
特定行政書士 / 元大阪府警捜査二課刑事
大阪府警で18年間、捜査二課で詐欺・横領・企業犯罪の捜査に従事。退職後は会社役員として経営にも参画。 現在は特定行政書士として、企業の危機管理・外国人雇用支援・医療法人設立支援を行っている。
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